悪役令嬢の復讐マリアージュ
ぐちゃぐちゃ
無事に引越し作業を終えた私は、急用が入ったという重松を見送ったあと。
バルコニーのデッキチェアから、黄昏時の海を眺めた。

もう楓くんは帰宅してるだろうか……
でも話は週末に延期になったから、いつも通り遅いだろうか……
私が出て行った事に気付いたら、どう思うだろうか……
なんて、無意味な事を考える。

携帯電話は新規契約したものの。
今までの番号も離婚が公表されるまでは、解約するわけにはいかなかった。
だから周りには、何かあったら留守電に伝言を入れるように頼んでいて。
電源はマンションを出る時に切っていた。

だけど。
留守電が入ってるかどうか、確認するのは怖かった。
もし楓くんから入ってたら、聞くのが怖いし。
入ってないのを知るのも怖い……

覚悟して決行した計画なのに。
無事に成功して、よかったと思ってるのに。
この現実が受け入れられなくて、想像の何十倍も苦しかった。

さっきまでは重松もいたし、引越し作業でバタバタしてたから、少しは気が紛れてたけど……
どんどん苦しくなって、息も出来なくなる。

楓くんのために生きてきた、私の人生から……
楓くんがいなくなる。
それは、生きる意味を失うに等しくて……
魂がもぎ取られるようで……
恐ろしいほどの虚無感に襲われる。
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