伝説の男、黒崎天斗!

伝説の男、黒崎天斗!

12月24日、終業式を終えて俺と小山内、そして薫の三人で下校中小山内が

「そういや黒ちゃん…片桐から妙な話が…」

片桐とは以前大乱闘事件で参謀役として橋本と攻め込んできた主犯格だ。

「あぁ」

「最近黒ちゃんを狙ってる怪しい影が黒ちゃんの女を餌に狙ってるとか妙な噂が立ってるらしいぞ」

「マジか!」

薫はそれを聞いて胸騒ぎがした。

「たかと…それは多分…」

そう言って俺の腕を引っ張って小山内から離れた。

「たかと…狙ってるのは向こうの天斗だよ。でも…なんか胸騒ぎがして…勘違いで理佳子が狙われているとしたら…」

「えぇ?そんな事あるか?」

「わからない…でも…たかとと、天斗の話は少しややこしい関係だから…向こうの天斗には女は居ない…だとしたら…」

「そりゃまずいな…こっちに居たら何かあってもすぐには守ってやれないし…」

俺はあの嫌な夢が正夢になるのではと心配でならない。その時小山内が

「またなぁに?いつも俺に内緒でこそこそ話ししてぇ~!」

薫が小山内の手を握りウインクして小山内はメロメロになっている。俺はその気持ち悪い光景から目をそらせ見なかったことにした…いや…記憶から抹消した…永遠に…

「今日はイヴだよ。さ、行こう」

薫は小山内の手を引いてスタスタ歩いていく。そしてチラッと振り返り俺に軽く頷く。ヤバイな…この状況じゃあ、いつ何時何が理佳子の身に起きてもおかしくない…多分理佳子の為に重森が何かしら手は打ってくれるだろうけど…てか、今日は理佳子ん家行くんだった。とりあえず俺も早く帰ろ。


「ただいまぁ…母さん、今日理佳子ん家行ってくる」

「あら、そうなの?それなら手ぶらってわけにはいなかいわねぇ…将来のお嫁さんの家にお邪魔するんだから…結納金くらい持たせなきゃ」

母さんはやけにはしゃいでいるようだ。

「何か持ってく?」

「そうねぇ…もっと早く教えてくれれば用意したのに…とりあえずお菓子の詰め合わせ買って持っていきなさい。ちゃんと粗相のないようにご挨拶するのよ!一応昔はお付き合いあったけど随分前の話だし。」

「わかった。」

「それから、後で理佳ちゃんのお母さんにお電話したいから宜しく伝えて」

「うん、わかった」


俺は理佳子の家に向かう途中、デパートで手土産を買って駅に到着した。ホームで電車を待ってる時、近くにいた学生らしい感じの若者の話し声が聞こえてきた。

「なぁ、知ってるか?あの黒崎って有名な奴いるだろ?」

「あぁ、あの伝説のヤンキーだろ?」

俺はその話に聞き耳を立てる。

「そうそう、それがさ、神出鬼没で影武者説があるらしいぞ!」

「マジで?今はこっちの県に転校してきたとか、いや、やっぱり転校してないとか、あっちで派手にやりあったとか、そのときこっちで見かけたとか…なんか摩訶不思議な噂が飛び交ってて、実は双子の兄弟が居るんじゃないかとかまで…」

「あはははは!そりゃ都市伝説っぽいな」

「そうなんだよ!でも結局どっちにしてもその強さは本物だってさ」

「へぇ、そりゃ真相を知りたいとこだな…」

強さは本物…俺は複雑な思いだが、ちょっとテンションが上がってドキドキしてる。


「かーおりん!」

小山内は帰宅途中に薫と寄り道をし制服のまま大きな商店街を街ブラしていた。薫は照れ笑いしながら

「清…人前でその呼び方やめてよ…」

「あはは!かおりん可愛いね、赤くなってるよ」

「清、頼むからかおりんは二人だけの時にして…お願い…」

薫は完全に清の前では乙女そのものだった。

「じゃあ、かおりちゃん、今日俺ん家に来ない?」

一瞬薫が固まる。

「え…いいの?」

「もちろん!ただ…うちの母ちゃん…バリバリ元ヤンでさ…おとなしいかおりちゃんが耐えられるかどうか…」

小山内は本気で心配しているが、薫は全く気にしていない。そもそも薫自身が育ちの良い方ではないからだ。

「それは大丈夫。清の家見てみたい」

よっしゃあ~!かおりんお持ち帰り成功!!!

「んじゃ早速行こうか?」

「うん」

そして薫から小山内の手を握り歩きだした。これはもう完全にかおりんは俺にマジだな…今日はイケるような気がする…小山内は一人でドキドキしている。


電車が駅のホームで止まり俺は理佳子の家に向かった。理佳子の家に着いてチャイムを鳴らす
ピンポーン
すぐに理佳子が玄関のドアを開けて

「たかとくーん」

そう言っていきなり抱きついてきた。

「り…理佳子…まだ明るいし…理佳子の母さんも居るんだろ?」

「ううん、ちょっと出掛けて今一人だよ」

「そっか、それなら良かった」

「ん?」

「いや、ちょっと緊張するからさ…」

「早く入って」

理佳子に手を引かれて俺は二階の理佳子の部屋に向かった。理佳子の部屋は綺麗に片付けられていて、いい匂いが部屋を包んでいた。

「さっすが理佳子の部屋だな!」

「え?どういうこと?」

「すっげぇいい匂いするし、可愛い部屋だ!」

メルヘンチックな仕上がりで、でっかいテディベアのぬいぐるみを椅子に座らせているのが理佳子らしい。そのときミャアオ…と猫の鳴き声が…

「タカ…覚えてる?たかと君だよ。お前が餓死しそうな時に命を救ってくれた大恩人だよ」

タカは俺の方に寄ってきて可愛い上目遣いで俺を見上げる。

「お前かぁ!大きくなったなぁ!」

そう言って俺はタカを抱き上げ抱っこした。

タカはミャアオと鳴いて俺に甘えてきた。

「やっぱりタカはたかと君のこと覚えてるんだ!」

俺は嬉しくなりソファーの上に座りタカを膝に乗せてナデナデした。タカは気持ち良さそうにじっとしている。

「たかと君…私何度もタカに救われたの…凄く淋しい時、いつもタカは私を慰めてくれたの…タカは私にとってたかと君と同じ…」

理佳子…タカの目を見て

「俺の代わりに理佳子を守ってくれよ!」

理佳子は俺の横に座り一緒にタカを撫でる。俺と理佳子がキスをするとタカが空気を呼んで俺の膝から飛んでどこかへ行ってしまった。


小山内と薫は小山内の家に到着。小山内の家はそれほど大きくはない二階建ての戸建ての借家で間取りは3LDK、家族三人で暮らしていた。

「かおりん、今母ちゃん居るわ」

「うん」

小山内は玄関を開けて

「ただいまぁ~、母ちゃん彼女連れてきた」

「お帰り~、入って~」

中から小山内の母の声が聞こえてくる。確かに喋り方が少し元ヤンを思わせる感じがした。二人は家の中へ入りリビングに向かう。

「母ちゃん、紹介する。なんと!俺の初の彼女…重森薫ちゃん!」

「あら、可愛い娘ね!いらっしゃい。薫ちゃんね、宜しく」

「初めまして薫です。宜しくお願いいたします」

小山内の母…長いロングヘアの黒髪で少しウェーブがかっている。身長はだいたい160センチくらい、薫とほぼ変わらないくらいだ。顔はわりと綺麗な方で少しケバいところが元ヤンと言ったところか…

「薫ちゃん…あんたよくこんなバカと付き合う気になったね!疲れるでしょう」

「はい、でも可愛いところもあって…優しくて…」

「あはは!あんた変わってるね。薫ちゃんも私と同じ匂いがする。あなたけっこうヤンチャしてきてるでしょう?」

小山内の母は実に鋭い。薫は全く過去の自分を出していないつもりだったがあっさり見抜かれてしまった。

「母ちゃん、かおりんに向かってそんな言い方…かおりんはか弱き乙女なんだぞ!」

「清…かおりんはそうとう肝が座ってるよ!この娘気に入った!お前、良い子捕まえて来たわ」

そう言って笑っている。

「ありがとうございます。清のお母さんにそう言ってもらえて凄く嬉しいです」

「今日はクリスマスイヴだからお泊まりしていくつもり?」

「母ちゃん!だからいきなり失礼だって!」

「あはははは!男と女がクリスマスに会うってことは、ロマンチックな夜を求めているのなんて当たり前でしょ?」

さすが小山内の母だけあって言うことが違う。なんか小山内がまともな人間にさえ見えてくる。

「お母さん、そう言えば窓ガラスどうされたんですか?」

「お母さんだって、あんたほんと面白いねぇ!ますます気に入ったよ!」

小山内の母は薫を心底気に入ってしまった。この思わぬ展開に小山内は戸惑いを隠せない。

「あの片桐がやったやつだろ?あのあと母ちゃんが片桐呼び出してヤキ入れてさ、全額片桐の親に請求したんだよ!結局弁償してもらった…」

「あはは!そうだったんだぁ~」

「そりゃそうよ。まだ夏だから良かったけど、あれがもし今みたいに寒かったら、片桐の奴今頃三途の川で溺れ死んでるところだよ」

三人は大笑いした。この親にしてこの子ありか…薫は何となくこの家に馴染めそうな気がしていた。

「あんた達、まだ子どもは作っちゃダメだよ!」

そう言って、あっははと笑っている。

「か…母ちゃん!!」

薫もハハッっと笑った。


「ただいま~、理佳子~帰ってるの~?」

下から理佳子の母の声がする。

「お帰り~」

そう言って理佳子が立ち上がり俺の手を引いて

「お母さん帰ってきたから行こ?」

「あぁ、やっぱ緊張するな」

俺はドキドキしながら階段を降りる。階段を降りてリビングに向かうとそこには綺麗な女性が買い物袋からいろいろ物を出して片付ける姿があった。

「お母さんお帰り、たかと君だよ」

「初めまして、黒崎天斗です…」

俺は恥ずかしくてついニヤニヤしてしまう。

「あはははは!たかちゃん初めましてだなんて…やだわぁ、ほんとに忘れちゃったのね」

こ…これが理佳子の母さん…美人だなぁ~…やっぱ理佳子に似てるわ…いや、理佳子が似てるのか…

「たかちゃん、昔は…おばさん!理佳ちゃんお嫁さんに下さい!って言いにきたのに、急に遊びに来なくなっちゃって…おばさんも、たかちゃんが大好きだったからあの時は淋しかったなぁ…」

俺は赤面してしまった。

「ほらね?みんなそう言うでしょ?たかと君ほんとに私をお嫁さんにしてくれると思ってたんだから…」

「悪い…どうしてもそこが思い出せなくて…」

「でも、こうしてまた理佳子を迎えに来てくれるなんてほんとキセキみたいね」

俺は思い出して手に持った土産屋を差し出して

「これ、母からおばさんにって…それと、後で母さんがおばさんにご挨拶がしたいからお電話させて下さいと言ってました」

「あらぁ、わざわざありがとう。黒崎さんには私から電話させてもらうわね、ありがとう」

俺の緊張はいつの間にか解けていた。理佳子の母さんに受け入れてもらった安堵感でここに居るのが自然に感じられたからかも知れない。

「ありがとうございます」

「たかちゃん、こないだは理佳子がお邪魔させてもらってありがとう。理佳子は一人っ子でワガママだから大変でしょうけど宜しくお願いね」

「いえ、理佳子は僕にとって大切な存在ですし、全然ワガママなんて言ったことありませんよ」

「たかと君…」

理佳子は照れて赤くなっている。

「おばさんね…たかちゃんだったら本当に理佳子を任せても安心なの。いつも理佳子からあなたの話は聞いてるし、ほんとに理佳子のことを大事にしてくれてるのは分かってるから。大変だとは思うけど…理佳子のことお願いね」

「おばさん、ありがとうございます。俺、理佳子のことちゃんと守ります。どんなことがあっても絶対に…」

「たかと君…」

「あはは!たかちゃんは変わらないわね。その真っ直ぐな所は今も昔もそのまま…ほんとあなたで良かった」

理佳子の母は理佳子の将来の男が天斗であることを切に願っている。そして理佳子も、この真っ直ぐな天斗に益々惚れて行くのだった。
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