羊の群れ
特に何もなかった。
さっきまでのどんよりとした曇り空と打って変わって太陽がこちらを照らしている。
教室へ入る前の廊下は人で溢れかえっていたし、入っても、いつものようにグループごとで固まって話をしたり、1人で勉強したり、と、変わらない学校だった。
朱里は、弁当の最後に取っておいたウインナーを頬張りながら、紗加《さやか》の艶やかな前髪を眺めていた。
「でも、羊ってさっきアイツが言ってたじゃん」
「あー、島田先生ねー。あれ、マジでビビった」
そう、英語の授業で丁度羊の話が出たのだ。
寝る時に数えるのは羊だけどなぜ、羊なのか。
という話題。
答えは睡眠のsleep(スリープ)と羊のsheep(シープ)の発音が似ているかららしい。
だから、日本人が「羊が1匹、2匹······」と数えるのは効果が期待できない。
島田教諭は帰国子女で手に入れた得意の発音でこの違いの説明をしていた。
でも、朱里が見た夢とは恐らく関係ないだろう。
「夢って逆夢とか正夢とか色々あるもんね〜」
紗加はお弁当袋に一式をつめると机横の鞄に直した。
「これ、正夢だったら怖いよ。でも何か、引っかかっるんだよね」
「ん〜。あんまり気にしないほうがいいよ。病むよ?」
「そうだよね。所詮夢だし」
「おい。これ」
朱里の後ろには学級日誌を片手にした圭介《圭介》がこちらを睨んでいた。
本人は睨んでいるつもりはさらさらないがキリッとした目が目付きを悪くさせる。
見下ろされると睨んでいるようにしか見えない。
「あっ、今日私、日直だっけ?」
「だっけ、じゃねぇよ。とりあえず黒板全部やっといたから。あとよろしく」
「あ、ありがとう······」
圭介は廊下で待っている他クラスの友人のもとへ掛けて行った。
「中谷さ、絶対朱里のこと好きだよ」
「えっ?なんでよっ」
「うーん。女のカンってやつよ」
「圭介はいい人だけど、幼なじみって感じ。顔は悪くないけどさ、なんていうか、子供っぽすぎるっていうかさ······」
「そーね。ガキンチョよね」
「あっ、そーいや紗加はどーなの?」
紗加はニンマリと笑みを浮かべた。
「あ〜。その顔は上手くいってるな〜」
「喧嘩はあれからしてないでしょ?それに、此の前ね······」



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