ツイてない!!〜But,I'm lucky to have you〜

人生最大のツキ

「あ、病院内は走らないで下さい!!」

不意に聞きなれた看護師長の声がした。その制止を振り切るように、足音が近づいてきて止まる。
大柄な大河さんの体が邪魔して見えないけど、そこにいる人物の予想はつく。

「さ、面白くなってきた」

大河さんがつぶやいている。サングラスの向こうの目がやっぱり笑ってる。

「大河すぐに戻れ。この後、新宿に移動だ」

やっぱり。この声は孝弘さん。嫌だ、今は会いたくない。
よし、孝弘さんとは目を合わせないようにして、仕事に戻ろう。

「私、仕事に戻ります」

大河さんの脇をすり抜けて、私は廊下に出ようとした。
が。

「マナ」

逃げ切れなかった。孝弘さんがたった一言私を呼んだだけで思わず足を止めてしまった。

「少し話できる?」
「今は時間がありません」
「じゃ、一言だけ。
マナ。僕は君が好きだ。君が僕の一番だ。不安にさせてごめん」

孝弘さんの顔を見る。今にも泣きだしそうな、あどけなさというか幼さをにじませた表情。よく、かわいいなんて思っていた表情だ。
今はそれがちょっと頼りなく見えてしまう。


「二葉、こいつなのか?頼りなさそうじゃないか。これなら、俺にも勝ち目はありそうだ。」

長野先生が、小さく挑戦的に笑う。さっと私のそばにやってきて腕をつかんだ。痛いくらいの力で。
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