運命の推し

最高の人生





それから。




私は入退院を繰り返して。




季節も秋から冬へ。

冬から、もうすぐ春が来ようとしている。





ついにこの日がやって来たんだわ。


そう思ったの。



もう、自力では体を起こせない。

部屋に置いてもらった介護用のベッドから、かすれた声で。

愛しいひ孫の名前を呼んだ。





「日向……、そこにいるの?」






すぐに私の右手に、柔らかくて温かい手が触れた。


「笑子ばあちゃん」


その声を聞いて、安心したわ。









あぁ、お父さん。


私、もうすぐ会いに行きますからね。



お父さんに会えたなら、何て言おうかしら。



きっと変わらない、あの大好きな瞳で。

優しく迎えてくれるわよね?





20年も長く生きたおばあちゃんの私を見て、お父さん、驚くかしら。



楽しみだわぁ。








……そんなことを考えていたら、意識が遠のいていくのが分かった。


視界が少しずつ暗くなっていく。




でも、怖くないわ。


長い人生だったわね。

だけど、あっという間だった気もするわ。


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