逃げて、恋して、捕まえた
「こんな話をされて、僕が奏多に黙っていると思いますか?」
「それは」

課長と奏多は高校時代からの親友。本当だったら黙っていてくれるはずはない。
そんなことは私にもわかっている。
でも、

「奏多が今大変な時なのは課長が一番おわかりですよね。彼に話せばきっと仕事を放り出して帰ってきます」
いつもなら課長の前ではたじろいでしまう私も、今日はまっすぐに目を合わせて詰め寄った。

誰よりも奏多の性格をわかっているであろう田代課長。
奏多の親友であり仕事の相棒でもある課長は今回のプロジェクトがどれだけ重要なものかをよく理解している。だから、今このタイミングで奏多の気持ちを乱すようなことを告げ口するはずがない。
私の中でそんな結論に達した。

「すごい自信ですね」
ちょっと馬鹿にしたように課長が笑った。

「自信なんて・・・ありません」

初めから、私には何もない。

「この先どうするつもりなのか、聞いてもいいですか?」
「この先?」

それは、どこへ逃げるのかを聞かれているんだろうか?
それを聞いて奏多に告げ口するつもりだろうか?

「奏多の側にいればお金の不自由もなくいい生活ができるのに、それを放り出してあなたは何をしようって言うんですか?」
「・・・」

無意識のうちに、私は課長を睨んでいた。
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