逃げて、恋して、捕まえた
「本当に困ったなぁ」

どこの誰ともわからない女の子にこんなに執着している自分が面白い。
彼女が旅人で、俺はもうすぐ帰国を迫られている。
この先どうすることもできない関係とわかっているのに。

はぁー。
大きくため息を1つ付いて、俺はやっと腰を上げた。

自分の携帯を預けてしまっている以上ラウンジに降りていくしかない。
もしかしてその辺のゴミ箱に捨てて逃げたかもしれないが、それはそれで運命だったとあきらめもつく。
返っておとなしく待っていられたら、俺は一体どんな顔をして彼女に会うんだろう。

彼女に携帯を預けたのは俺の賭け。
生まれて初めて感じた欲望に運命をゆだねてみようと思う。

もし彼女がラウンジに残っていたら、ちゃんと名乗ってデートに誘おう。
名前を教えないと言われれば、それはそれでいい。
予定があるからと断られれば、それも運命。
全ての駒がそろって上手く事が運べば、今日一日を彼女と過ごす。

俺は心を決めて、ラウンジに向かった。
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