触れないで、杏里先輩!
家から自転車に乗り、五分。
電車に揺られて、五十分。
そこから更に歩いて、十分。
都会の喧騒が薄れた所。
坂を登ると見えてくる木々達に囲まれた真ん中、丘の上に私の学校はある。

どうして私がこんなにも遠い学校に通っているのかというと、入りたかった部活があったとか、ある学科が特化しているとか、そういうわけではない。
ただ単に、家から近かった第一と第二志望の高校に落ちたから。
そんな運悪く通う事になった高校。
ゴールデンウィークが明けた今日、一ヶ月も通うと大分慣れた。
朝早く起きるのと電車に乗るのが憂鬱だが、風を邪魔する建物も少ない立地と木々のお陰で濁りのない澄んだ空気には気に入っている。
私はそんな空気を味わいながら、今日も誰も居ない坂を登りきった。




「はぁ~、今日も麗しい!杏里《あんり》先輩~!」

窓側一番後ろの私の机に腰掛けて外を眺めているのは、高校で唯一の私の友人の永澤亜季《ながさわあき》ちゃん。
両指を絡めてウットリとしている先には、二年生の中谷杏里《なかたにあんり》先輩が居るようだ。
『ようだ』と言ったのは、私は興味が無いので外を見てもいないから。
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