愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
「触れてもいない。あ、いや、ちょっと肩くらいは触ってしまったかもしれないが」

 あらまあ、一体何を言い出すのやら。

「綾星さん。あなたの心は私にはないでしょう? 浮気とか、何かしたとかそういうことではなく」

 すると何故か彼は傷ついた顔をする。

「それは……いや、その」

 しどろもどろだ。
 もしかして彼は私が彼の浮気を誤解して、離婚を切り出したと思っているのだろうか。

「すまなかった」

 いったい何が?
 彼は深く頭を下げたまま、顔を上げない。

 なんだか居たたまれない。これではまるで私が無理を強いているみたいではないか。

「もしかしたら、急なことで混乱しているのかもしれないですね。離婚届は落ち着いてからでいいですよ? では」
 席を立とうとすると「待って!」と手を捕まれた。

 えっ?

「嫌だ。俺は、俺は君と離婚したくない」

「は?」

 より一層強く掴んでくる彼の手を、私は捻りあげた。

 やはり武道はやっておいて損はないわねと思う。
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