【完】鵠ノ夜[上]
「え、隠してたの?」
「……別に隠してるわけじゃないわよ。
でもそこまで生まれた日に執着もないから、いつも通りでいて欲しいの」
何とも、レイちゃんらしい理由だ。
彼女が5歳になる前にいた人しか彼女の誕生日を知らないなら、つまりその考えをそんなに幼い頃から持っていたということだろう。その揺らがない芯の強さは、昔から健在で。
「一年に一度だけ。
特別だって、小豆がご飯に連れて行ってくれるのよ。……それだけで十分じゃない」
「……なーんか。
小豆さんだけ特別みたいで妬けるんだけど」
「ちょっ、ゆきちゃん……」
そういうこと言ったらややこしくなるから!と。
とっさに口を開くけど心配しているのはぼくだけのようで、きょとんとしてるゆきちゃん。女子受けが良さそうなその甘めの表情でそんな顔されたら可愛いだけだからやめて欲しい。
「だって妬けるじゃん。ずっと一緒にいるんだし」
「それはそうだけど、」
もごもごと。
言い篭る僕を見たゆきちゃんは。「あ、」と小さく零した後、なぜか「ごめん」と謝る。すごく楽しそうに笑ってるけど。
「言い忘れてたわ〜」
ろうそくに火をつけ終えたレイちゃんの腰に、ゆきちゃんが腕を回す。そのせいでこいちゃんが不機嫌になったのを見逃さなかったけど、今はひとまずスルーだ。
レイちゃんが「雪深危ないから」と宥めているけど、それすらお構い無しのゆきちゃん。
「俺がお嬢のことだいすきだって。
……お嬢はもう、知ってんの。ね?お嬢」
「"色々詮索されたくないから言わない"って、
前に言ってたのに教えちゃっていいの?」