【完】鵠ノ夜[上]



「聖の息子っていう価値があるでしょ。

自分の綺麗な顔にだって価値があるのをわかってるから、女の子を何人も引っ掛けられるんじゃないの?」



「、」



「価値がないってそうやって言い訳して結局逃げてるだけじゃん。

楽して生きてたら、そりゃ価値なんて見い出せないでしょ。俺だって別に自分に価値があるとは思って生きてないけど。俺じゃなきゃダメなことはあると思ってるよ」



さら、と雪深の黒髪が風で揺れる。

校内で授業開始のチャイムが鳴ったけど、誰も教室に戻ろうとはしない。後で小豆さんから小言を食らうくらい、今はどうってことないけど。



「雪深。今晩、わたしの部屋に来て」



「………」



「あなたの今までの行動で、あなたが何をしたかったのか。……きっとあなた以上にわかってるから。

わたしが、あなたに選択肢を与えてあげる」




きっと、雪深はこれで救われるんだろう。

レイがそう言うってことは、間違いなく雪深に価値を与えるだけの自信はある。あとは、雪深の覚悟次第だ。──雪深自身が、それを望むかどうか。



「もし今晩部屋に来て、わたしと話して、それでもあなたが価値を見い出せないって言うなら。

……そのときは、護衛から外させてもらうわ」



「レイ……」



「聖の跡も継がなくていいように、あなたの両親とも話をつける。

だから、あなたが本気で自由になれるようにしてあげる。……その代わり、そうなればもう、誰も手は差し伸べてくれないわよ」



自分勝手で。

女の子のことでレイすらも巻き込んで、とんだお騒がせなヤツだけど。それでも。



「本気であなたに価値がないと思ってるなら、わたしは主人としてあなたを助けたりしない。

はじめから……護衛としてそばに置かないもの」



五家として。"雪深"として。

必要だと思ってるのは、俺もレイも。ほかのヤツだって、きっと同じだ。雪深がまだ、それに気づいていないだけで。



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