【完】鵠ノ夜[上]



ならば、実力行使。

布団の上に彼を押し倒して、ねえ、と耳元にくちびるを寄せる。女の子と遊ぶのは好きでも、押し倒されることなんて滅多にないでしょうけど。



「価値のない自分が、寂しいんでしょう?

だから女の子と遊んで、それを埋めてるのよね」



左手で彼の髪を撫でる。

その瞳が完全にわたしを拒んでいることくらい、出会った時からずっと知ってる。



どうでもいいと言ったくせに、

そこにはっきりとした意志があるのはずるいと思わない?



「なら……、わたしが満たしてあげる。

あなたの主人であるわたしなら、あなたは誰にも文句を言われることなく、誰にも迷惑をかけずに、自分のさみしさを埋められるじゃない」



「……出来もしないのに?」



「もちろん、自分の安売りはしてないもの。

だからただ、あなたを満たしてあげるだけよ」




理解できないと言いたげな顔。

さっきも言ったけれど、雪深とむずかしい話をしても無駄なのだ。そして彼は、至極単純な人。行動で示してあげれば、わかりやすく動く。



「だから。……委ねてなさいって意味よ」



言うが早いか、無防備だったくちびるを塞ぐ。

さすがにはじめは拒もうとしたようだけど、女の子とキスすることに慣れているから、わたしとしたって変わらないらしい。



それと同じで女に満たしてもらえるのなら、他はどうだって構わないようで。

抵抗する気配を見せないのを良いことに、彼の浴衣を肌蹴させる。部屋着はみんなまちまちだけど、今日に限って彼が浴衣を着ているのはラッキーだ。



「……手慣れてる。

もしかして、意外と経験豊富?」



「まさか」



取り乱さないあたりは、さすが女慣れしてるというか。肌の上に、いくつもの紅い花びらが散る。

いくら実力行使とはいえ、何してるんだろうとは思うけれど、"彼"はもう、わたしの行動に口出しできないのだ。……昨日の晩、別れたのだから。



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