視線が絡んで、熱になる【完結】
今後は社外の人と仕事をしていく。一般的に言われている女性は化粧をすることがマナーだという認識はもちろんある。涼が切り出したこの話題に関しては、おそらく“化粧した方がいいんじゃない?”という意味も込められているのだろう。
トラウマになっていたそれをまた自らでする自信はなかった。しかし、それでは営業先に失礼になるかもしれない。
ファンデーションにアイブロウだけでもそれなりに見えるだろう。あくまでも、“仕事”のためだ。自分の為ではない。

何度か自分に言い聞かせるように心の中で呟き、今日帰宅する際に化粧品を購入しに行こうと決めた。
「着いたよ」
涼の声に顔を上げる。いつの間にか駐車場に止まっていた。背筋を伸ばして、鞄を肩にかけると同時に車を降りた。有料駐車場に営業車を止め、そこから数分歩き理道の本社ビルの前に到着した。

「わぁ、すごい…」

立派な自社ビルに感嘆の声が漏れた。隣の涼は太陽が眩しいのか目を細めて行こう、と足を進める。
ビルのエントランスには警備員が数名いる。
受付で名前を言い、エレベーターで14階へ行くように指示をされる。
この時既に琴葉の緊張はピークに達しており、何度も酸素を肺に取り込みそれを吐き出した。

涼は何度も「緊張しなくても大丈夫」と声を掛けてくれるが、琴葉の緊張はほぐれることはなかった。
14階に到着し、空調が効いている廊下を歩く。
涼は既に何度か来ているようだったから場所も把握しているようだった。
歩いていると向こうから女性一人と男性一人がこちらへ歩いてくる。
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