愛しの彼に溺愛~石油王の場合~
挨拶への道中 ー アキside
これから行く場所の事を考えるだけでひどく緊張する。

初めての商談の時の緊張感に似ている。
落ち着かない。

そう思い、ネクタイを少し緩める。


「ネクタイを緩めるなんて珍しいね」


そうにこやかに助手席から話しかけてくる。


「…ちょっとな」
「息苦しかったの?」
「そんなとこだ」
「ふーん」


明らかに察している。

彼女は少しニヤニヤした顔をしながら「そっか。緊張しているんだと思った」と鞄を探りながら口を開く。


「分かってるなら言うな」
「あ、認めた!」
「はぁ…。誰でも緊張するだろ?婚約者の両親に挨拶に行くんだからな」
「アキさんにもそういう感情あったんだ」
「たまに思うが、弥生は俺の事を化け物かなんかだと思っていないか?」
「うーん。化け物っていうより完璧すぎるんだよ。アキさんが!」


それはそうだろう。
誰もが失敗よりも成功を求める。

それに、弥生には完璧な俺を見て欲しいからな。


「でも緊張するってわかったから、はい。口開けて!」
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