ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


胸がぎゅうっと締めつけられる。


目が合っただけ。

なのにこんなに嬉しそうに、幸せでたまらないって顔されたら。


「あっつ……」

「っ……」


「いくらクーラー入れてるとはいえ、やっぱこの時期にジャケット着て、ネクタイ締めてんの結構きついな」


前髪をかきあげて、ネクタイをゆるめるその姿。


暑いのに。ふだん、ゆるい格好しかしないのに。

私のために、私を想ってしてくれた、なんて言われたら。


「なぎ、さ……」

「うん?」


幼なじみで、彼氏で、婚約者。


渚のかっこいいとこなんて散々見てきたはずなのに、まるで私の視界だけ一面フィルターがかけられたみたいに色っぽくて。

目なんて、到底見れるわけない……。

そう、思うのに。


「むぎ」

「……」

「おいで」

「っ……」


ベッドに腰かけた渚がコテンと首を傾けて、両手を広げて待ってる。


「めいっぱい抱きしめさせて」


その腕の中に潤む瞳でゆっくり歩みを進めたら。


「はぁ……やっと来てくれた」


「っ、ぁ……」

「むぎ……」


ストンと渚の膝の上に乗せられて。

離したくない。

そう言われてるみたいにぎゅうっと強く抱きすくめられた。
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