ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


「お、親が高校に入っても伸びるからって大きめのやつ買ったから、これしかないんだよ」


「へえ……てかおまえ名前は?」

「え?」


「俺他のクラスのやつ名前、あんま覚えてなくて悪いんだけど、名前教えてよ」


な、名前……。

どうしよう……。

自分の名前言うわけにはいかないし、えーと、えーと……。


「……海」


「うみ?」


「そう。1文字で海」


自分の名前からはどうにも思いつかなくて、渚つながりで、海。


「へえ、いい名前じゃん。
苗字は?」


えーと、えーと!


「……田中」


思いついたのがこれしかなかった……。

全国の田中さん、ごめんなさい。


「ぶはっ!」

「え?」


なぜ噴き出す?

なぜか、ぶはは!とお腹を押さえて笑ってる。

え、私田中って言っただけなんだけど……。


「なにか、おかしい?」


「いや?なんでもねーから気にしないで」


「そう?」


「うん。てかさ、海って、好きな人とかいねーの?」


「す、好きな人?」


つい数秒前まで名前さえ知らなかった相手になんの質問!?


「カワイイ系っぽいし。彼女とか、いねーの?」

「あ、えーと……彼女、はいないよ……」


彼氏は、いるけど。

だって自分が彼女、だから……。
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