すべてが始まる夜に
テーブルにビールジョッキが2つと、お刺身の盛り合わせが並ぶ。

「ビールが来たことだし、先に飲むか」
「そ、そうですね」
「そうだな、俺の情けない振られ方にでも乾杯するか」
「ぶ、部長、何を言われてるんですか……。あの、すみません、コメントしづらいです……」
「悪い。まあとりあえず乾杯だ」

苦笑いを向ける部長に「お疲れさまです」とジョッキをカチンと合わせ、早速生ビールを口に運ぶ。
喉が渇いていたのか冷たいビールがとても美味しい。
珍しく半分くらい一気に飲んでしまった。

「白石、いい飲みっぷりだな」
「朝ごはん食べてから何も食べてないんです。さっきのカフェでも半分くらいしかカフェオレ飲めなかったし。あっ」

先ほどのカフェの話題を出し、思わず「あっ」と口元を押さえる。

「もう気にしちゃいねぇよ。逆に気遣われる方が傷つく。それよりさっきは本当に悪かったな」

「いえ。もう大丈夫ですから。それより部長、お刺身食べましょ。お醤油どうぞ」

私はテーブルの端に置いてあるお醤油を取って部長の前に差し出した。部長が自分の小皿にお醤油を入れる。

それにしても部長と2人でこうしてごはん食べてるなんて、自分でも信じられない。本当に不思議な気分だ。

もし会社の女性社員が知ったら、めちゃくちゃ怒られそうだよね。それに葉子や若菜ちゃんが知ったらものすごい質問攻めに合いそう──。
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