すべてが始まる夜に
「部長、やっとお家に着きましたね」

「やっと着いたな。なんか同じ場所から出発して同じ場所に戻って来るって、不思議な気分だな」

「そうですね。私も不思議な気分です。部長、お疲れさまでした」

「お疲れ。ゆっくり休めよ」

「はい。部長も明日は日曜日なのでゆっくり休んでくださいね。それと、これどうぞ」

私は福岡空港で買ったクロワッサンの袋を部長に渡した。自分用のクロワッサンを買ったときに、たくさん奢ってもらったこともあって部長の分も買っていたのだ。

「クロワッサンです。今すごく人気なんですって。明日の朝ごはんにどうぞ」

「えっ、俺に? いいのか?」

「はい、私のもありますので。試食したんですけど、サクッとして美味しかったですよ」

「お前、空港で試食したのか? もうお腹いっぱいで入らないって言ってなかったか?」

「そうなんですけど、あのパンのいい匂いを嗅いだらつい……。このままでも美味しいみたいですけど、トースターで少し焼くともっと美味しいみたいですよ」

そう笑顔を向けると、部長も優しく微笑んでくれた。

「じゃあ、また月曜日な」

「はい、おやすみなさい」

部長がエレベーターで上にあがっていくのを見つめながら、なぜか少し寂しさが込み上げてきた。
2日間一緒に過ごしたせいだろうか。
緊張していた出張が無事に終わってほっとしたからなのかもしれない。
私は鞄から鍵を取り出すと、ドアを開けて部屋の中に入っていった。
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