すべてが始まる夜に
「私としては非常にいい企画案だと思います。ラルジュも全国的にかなり店舗が増え、人気はまだ衰えていないものの少しマンネリ化してきている感じはありますし、ここで試験的にフードに手を加えて提供してみて顧客の動向がわかれば、こういう戸建て的な建物を使用して店舗を展開する際には、ワンランク上のラルジュとして店舗の差別化を図るのも面白いかと思います」

「なるほど。店舗の差別化か……。僕もこれからは今までのラルジュとは違う何かを取り入れていかないといけないとは考えていましたが、同じラルジュで店舗の差別化を図るというのは考えていませんでした。青木さん、参考になります」

素直に頭を下げる部長に、青木さんはいやいや、と首を振る。

「私としては、さすがだなと思いますよ。部長は本社に来られてまだ半年が過ぎたばかりだというのに、こういう企画案を出してこられるんですからね。実は、戦略部でも出張を取り入れて若い者たちに現場を見させるというやり方もとてもいい考えだと思っておりました。私が以前、新店舗立ち上げに携わっていた時や今の分析の仕事をしていて思うことがあるのですが、 “客がカフェに行く” というのは、やっぱり居心地とその店の魅力だと思うんです。いくら美味しいコーヒーを提供したとしても、居心地が悪ければ客の足は遠のいていくだろうし、逆に居心地がよければ、コーヒーの味に少々不満があろうとも客は訪れてくれるが、でも頻繁には訪れない。どういうことかと言うと、居心地と魅力のどちらか一方だけだと顧客はある程度までしか見込めないってことです。現在のラルジュは、居心地もコーヒーの味にしても顧客にはいい評価をしてもらっている。だけど他店もウチに匹敵するようないろんなアイデアや工夫をしてきています。今よりももっとよい空間を提供するためにも、まずはこういう “視覚を仕掛ける” というアイデアはやってみる価値があると思いますね」

青木さんの話に、みんなが納得したように頷いた。
部長が再び青木さんにお礼を言って、みんなの顔を見る。

「青木さんが言われたように、今回は少し見た目にこだわってフードの視覚を仕掛けてみようと思う。今はSNSの時代だし、話題になればまた新しい発見が生まれるはずだ。今日の会議でも意見を出し合っていこうと思うが、来週もう一度会議をしてみんなの意見を纏めたいと思う。よろしく頼む」

部長の言葉を皮切りに、若菜ちゃんや吉村くんがラルジュのフードメニューを見ながら意見を出し、考え始めた。

私もプリンを容器から出して提供する考えや、うちの一番人気の野菜たっぷりのローストビーフサンドやふわふわのフレンチトーストで魅力的な視覚を提供したいと意見を出した。

会議は思いのほか白熱して、結局その日は定時近くまでみんなで意見を出し合った。
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