すべてが始まる夜に
その麗香がどうして東京に来たのかというと、友達の結婚式があるということで昨日から東京に来ていたようだ。

東京に行くから会いたいと事前に連絡があったけれど昨日は時間が合わず、結局結婚式が終わった後ならということで式場の近くで待ち合わせをして、たまたまあのカフェに入った。

このあと飯でも食いにいくかと話していたところだったのに、どうしてこういう話になってしまったのか。
おそらく友達の結婚式に出席して、自分も結婚がしたくなったのだろう。
だから俺は最初から結婚するつもりはないって伝えていたはずなのに──。

麗香は俺の答えが気に入らなかったのか、「じゃあいつになったらしてくれるの? 2年も付き合ったのよ。それなのにまだ結婚するつもりがないってありえない」と、さらに大きな声を出して俺にきつい視線を向けた。

結婚なんか考えなくていい、付き合ってくれるだけでいいって言ったのはお前だろ。
忘れたのかよ。
やっぱりどの女も最初は付き合ってくれるだけでいいといいながら、結局は結婚を求めてくる。
こんなことなら東京に転勤になったときに強引にでも別れておけばよかったな。

別れなかったことを後悔しながら「俺がこっちに転勤になったときに話したよな。結婚はまだ考えられないから別れようって」と反論したら、ますますヒートアップした麗香の声が返ってきた。

「悠樹って顔がイケメンだけでほんと最低ね。ちょっと女にモテるからって私のことなんだと思ってるの! イケメンだからって何でも許されると思わないで!」

誰もそんなこと思ってねぇよ──。

つい心の声がそのまま口から出てしまった。
キッと俺を睨んだ麗香は、「もういいわ。私、悠樹とは別れる」と別れを口にした。

結婚がしたいなら他をあたってくれ。
なんて言ったら怒るだろうから、「そうか、わかった」と答えたのに、その答えがさらに麗香の怒りを買ったようだ。
< 32 / 395 >

この作品をシェア

pagetop