すべてが始まる夜に
「でもさ、“俺も(・・)好きだった” ってことはさ。部長って自分から告白せずに、茉里に告白させたってことでしょ。そういうところすごいよね? 策士だわ」

「そうですよね。策士だとは思いますが、この茉里さんを好きにさせるってそれもすごいと思いません? 私は相当苦労したんじゃないかと思います」

「私もそう思う。誰もが気づいてるあいつの好意さえ気づいてない天然茉里だからね、松永部長が掃除機ゆうくんになるわけだわ」

「私も同意見です!」

「だってさ、あの金曜の夜、茉里をサラッとさらって帰って行ったの見た? “俺の彼女が今不安になってるだろうから、すぐに安心させてやりたくてな。茉里、帰るぞ” って。私たちの前であんなに堂々と溺愛ぶりを見せるなんて相当なものよ」

若菜ちゃんは葉子の物まねに、ぷぷぷっと吹き出している。

「“みんな悪いな。茉里も二次会キャンセルさせてもらうな” “悪いな宮川。あとこのネクタイの彼女は茉里だ。じゃあみんな、また月曜日な”」

「よ、葉子さん……もう、めちゃ似てる……クククッ。あーお腹いたい……」

気を良くした葉子は、さらに部長の物まねを続け、若菜ちゃんは涙を流しながら笑っている。


「ちょ、ちょっと、葉子……。そんな風に言ってないよ……」

「何言ってるのよ。若菜ちゃんだってめちゃ似てるって言ってるでしょ。あの溺愛ぶりを見たらね、あれから帰って掃除機ゆうくんが発動したのは手に取るようにわかるわ。そのタートルネックの下は、掃除機ゆうくんがつけた赤い痕を隠してるんでしょ」

えっ、と胸元を押さえて目を見開くと、ぷぷっと葉子が笑い始める。

「茉里はほんとに正直というか、そういうところに部長も惹かれたんだろうね。わかる気がするわ」

「私もそう思います。計算もなにもなくて、真っ直ぐで素直で。部長からしたら心配で仕方ないでしょうね」

「あー、それわかるー。しっかりしているのに、こういうところはうぶ(・・)だからね。でもさ、部長のことだから結構教えがいがあるって楽しんでそうじゃない? 茉里って素直に何でも信じちゃうじゃん。キスマークつけても、 “このキスマークは、茉里は俺のものだっていう証拠だ” なんて真顔で言ってそうじゃない?」

「もっ、もしかして……違うの?」

そう呟いた瞬間、葉子と若菜ちゃんの会話がピタリと止まった。
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