すべてが始まる夜に
「こいつは新店舗の林店長だ。こっちは事業戦略部の白石、この店舗をプロデュースした担当者だ」

「はじめまして。本社事業戦略部の白石です。よろしくお願いいたします」

「カフェラルジュ福岡店の店長の林です。この間まで駅前店の店長をしてました。松永さんがこの店舗のプロデュースの責任者だと聞いて、駅前店から異動願いを出してここに来たんです」

林さんは部長のことが好きなのか、ニコニコと嬉しそうに話している。
中性的な可愛い系のイケメン男子で、林さん目当てのお客さんもやって来そうな雰囲気だ。
そんな林さんに、部長が横から口を挟んだ。

「お前もそろそろ現場を卒業して、こっちに来いよ。来年30だろ。まあ、今回はお前がここの店長になってくれたおかげで、安心して任せられるけど」

「俺は現場が好きなんです。身体動かしてる方が性に合ってるし」

童顔なのでてっきり私より年下かと思っていたら、来年30歳と聞いて、年上だとわかりびっくりしてしまう。

「その気持ちはわからないでもないけど……。まあしばらくはこの店舗を頼むようにはなるけどさ。そのうち本社に呼ぶから、店舗で学んだことを今度はプロデュースする側として生かしてみないか」

「松永さんと一緒に店舗のプロデュースはしてみたいですけど……。考えておきます。白石さんみたいな可愛い女性がいるなら、本社で働くのも悪くはなさそうですけどね」

クシャッと笑顔を向けてくれた林さんに、愛想笑いを浮かべていると、部長がじろりと睨んできた。

「林、こいつに手を出したら俺が許さん。こいつは俺のだ。よく覚えておけ」

ええっ──? と驚く林さんに、私は慌てて手に持っていたお土産を林さんの前に差し出した。

「林店長、すみません。今回は試験的にフードの提供の仕方が通常の店舗とは異なるので、いろいろとお手数をおかけしますけれど、よろしくお願いいたします。これはお昼休憩にでも、スタッフの皆さんで召し上がってください」

部長と私の顔を交互に見る林さんに、部長は涼しい顔をして「林、そういうことだ。あとは察しろ」と含み笑いを浮かべている。

私は恥ずかしくなり、その場から逃げ出すように、他のスタッフの方たちひとりひとりに挨拶をしてまわった。
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