すべてが始まる夜に
「すみません。松永部長、白石です。薬持って来たんですけど、ここに置いておいていいですか?」

部長は寝ているのだろうか。
何も返事はない。

「あの、松永部長? すみません。薬ここに置いておきますので、もしよかったら飲んでくださいね。それと冷却枕もありますので、もしよかったらこれも使ってください」

何の返事もなく物音のしない部屋の中が気になるけれど、もう寝てるのかもしれないと思い、音を立てないように静かに玄関の前の床に解熱剤とタオルを巻いた冷却枕を置く。
そしてそのままゆっくりドアを開け、部屋から出ようとした。

ドスン──。

突然、部屋の中から何かが落ちたような鈍い音が聞こえてきた。
何の音だろうと思い振り返る。
だけど廊下の向こうには部屋との仕切りの中扉があり、中の様子はわからない。

「あの、部長大丈夫ですか?」

部屋の中へ向けて再び声をかけてみたけれど、何の反応もない。

今の音って何か落ちるような鈍い音だったよね?
もしかして──、部長倒れてる?

何も反応がないということは何かあったのかもしれないけれど、勝手に部屋の中に入るわけにもいかない。

どうしたらいいんだろう。
プライベートなエリアに入られるのなんて絶対に嫌だよね?
誰か会社の人に電話して来てもらう?
でもそんなことされたらもっと嫌だろうし。

玄関先で悩んでいる間も、部長からは全く返事もないし、ドスンと音がした以外、他には何も聞こえてこない。
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