すべてが始まる夜に
「勝手に入ってすみません。松永部長、大丈夫ですか……。あっ、えっ、うそっ!」

リビングに入ったときは死角になっていて見えなかったけれど、松永部長がソファーの下で苦しそうな顔をして唸っていた。

「部長、松永部長、大丈夫ですか?」

ローテーブルを少し横にずらして、部長の身体を抱きかかえながら頭を少し起こす。

「ちょっ、ちょっと嘘でしょ、すごい熱じゃん。さっきよりかなり上がってるみたい」

とりあえずソファーの上にあるクッションを手に取り、部長の頭の下に置いて寝かせる。

「ソファーの上かお布団の上で寝てほしいけど、この状態だと無理だよね。とにかく今は熱を下げないと……。そうだ。薬と冷却枕!」

玄関に置きっぱなしの薬と冷却枕を急いで取りに行き、タオルを巻いた冷却枕をクッションと部長の頭の間に入れる。

「熱を下げるには薬飲んでもらわなきゃ。部長ごめんなさい。勝手に冷蔵庫開けますね」

部長からは何も反応はないけれど、とりあえず断りを入れてキッチンに行き冷蔵庫の扉を開ける。

「な、何これ。ビールと水しか入ってないじゃん。あとチーズちくわとプリンって……」

部長とは似つかわしくないプリンを見てクスっと笑いながら、私は冷蔵庫の中からペットボトルの水を手に取った。
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