暴君王子の恋の瞳に、私は映らない



私の手から

するすると輪飾りが引っ張られていき、


私はその動きを、ぼうっと見つめ
考えてしまう。




この部屋にいちゃダメだ!


「帰ります」って、楓さんに言わなきゃ!



だって


鞭光君と、会いたくないんだもん……



彼の凛とした瞳を

目に映してしまったら、


やっぱり大好きだって

必死に、心に押し込んでいる想いが、

あふれ出してしまいそうだから……






「……あっ、、、あの……」



私の声を聞いて

作業の手を休め、振り返った楓さんは


「つぐみちゃん、今日はどうしたの?
 
 トレードマークの、満点スマイル。
 今日は定休日? 

 また見たかったのになぁ」



サバサバ声を吐き出しながら

目尻をゆるませた。




……笑顔……かぁ。




能面みたいに、無表情な今の私。



口角を、たった1ミリも

上げたいと思えない。


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