極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
「こんな時間だったんですか!? 本当に申し訳ありません……!」
 人の家に泊めてもらっておいて、家主が家を出るぎりぎりの時間まで寝こけているなんて、失礼極まりない。景光さんのことだ、私が起きるまで出るのを送らせてくれたのだろう。そう思うと申し訳なさもひとしおで、私は恐縮しながら何度も頭を下げる。
「……いや、むしろ嬉しかったけどな」
「え?」
「こっちの話だ。……じゃあお詫びとして、一つ頼まれごとをしてくれないか」
「何でもします……!」
「……男に、簡単に『何でもする』なんて言うもんじゃない」
 はあ、と重々しい溜息を吐き出した景光さんが跪くようにしゃがみ込む。そして布団の上に投げ出されていた私の手を取って、弄ぶように軽く揉んでみせた。
「今度、料理を教えてほしいんだ」
「料理ですか? いいですけど、どうして……」
「覚えておけば、紗世の体調が良くないときに代わりに作ってやれるだろう?」
「なるほど……?」
 私はあまり寝起きが良くなくて、思考にエンジンがかかるまで時間を要するタイプだ。
 よって『ハウスキーパーを依頼している景光さんが、料理の指南を今更頼んでくる』ことの不自然さにも気が付かないまま、曖昧に頷いたのだった。
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