若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「つもりではなく、美桜と結婚する」

 マンションのエントランスには、他の親戚たちもいた。
 なにが起きたのか全員わかっていないが、俺の女性トラブルだろうと思っている。
 俺の口から出た結婚の言葉に、親戚たちは立ち止まる。 
 他人事にはできない俺の結婚。
 その相手が誰なのか、全員、興味がある。

「やだぁ~。本気なの? 美桜は沖重(うち)の使用人よ? 礼儀作法もわからないし、習い事だってやってなかったから、なーんにもできないの。みなさーん。使用人が宮ノ入社長の奥様に相応しいって思いますか?」
 
 役員の妻たちが、ひそひそ耳打ちし、なにか話している。
 俺や直真を傷つけてきた悪意ある噂。その数々の噂で、追い詰め、蹴落とす。
 この場所は美桜と過ごした場所とは程遠い場所。
 淀む空気の中、深く息を吸う。
 
 ――すべて食らってこその宮ノ入。

 悪意だろうがなんだろうが、食らって生きて、俺は上に立つ。

「礼儀作法を知らない? 約束もなく、マンションに突然押しかけるのは、上品だと言えるのか?」
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