若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 社長と私では、あまりに家庭環境が違いすぎて、きっと想像できない。 
 それに、シャネルが実用的だと言ってるところで、その感覚、間違ってますよって教えてあげたい。

「気に入ってくれたか?」

 継母と梨沙に見つかったら、大騒ぎになることはわかっていた。
 だから、本当なら、これは返すべきだった。
 でも、さっきまで自信たっぷりな態度だったくせに、私が気に入ったどうかを気にしていて、それでつい受け取ってしまった。

「……ありがとうございます」

 私のお礼を聞いて、社長は紅茶を一口飲んだ。
 なごやかな空気が流れ、ホッとしたのも束の間。

「結婚は急すぎたかもしれない」
「『かも』じゃなくて、急すぎです」
「だから、お互いもっと知るために、付き合うところから始めよう。こちらは、妥協した」
「妥協……?」

 突然、結婚でなく恋人からスタートしようということだろうか。
 結婚から、妥協して恋人、
 確かにランクダウンさせている。

「そっちも誠意をみせてほしい」
「誠意!? 誠意ならありますけど……」
「よし。恋人からで決定だな」
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