若き社長は婚約者の姉を溺愛する
香り(2)
 月曜日、会社に行くのが、嫌でなかった私だけど、今日は少し落ち着かない。
 なぜなら、あの宮ノ入(みやのいり)社長が、『公園で』なんて言ったから。
 無視すればいいんだろうけど、相手は社長。
 沖重(おきしげ)の家から、私が自立するための資金を握っていると言っても過言ではない。

「とうとう昼休みが来てしまったわ……」

 お弁当と水筒を手に、悩んでいると、隣の席の木村さんが、私に言った。
 木村さんは私の一つ下で入社した後輩で、梨沙(りさ)と同じ年。しっかりしていて、はっきりした性格をしている。

「あれ? 沖重先輩、どうかしました? いつも十二時ちょうどに出て行くのに、なにか仕事のやり残しですか?」

 私がまだいることに気づいた同僚たちが、ざわつき始めた。
 
「あの沖重さんが、仕事で残っているだと?」
「天変地異の前触れか……」

 大騒ぎになりそうな空気を感じ、慌てて否定した。

「違うのよ。今から、行くところ。ちょっと天気が気になっただけ」
「私のデータによると、今日の降水確率はゼロです」
「データ? え、ええ。じゃあ、安心して行けるわね」
「はい。ごゆっくり。私は社食に行こっと。献立のパターンによると、今日の日替わりどんぶりはかつ丼だし!」

 木村さんはルンルンしながら、社食へ向かっていった。
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