若き社長は婚約者の姉を溺愛する
手中の桜 ※瑞生視点
 桜の花が散った公園を通り過ぎ、向かったのは祖父との食事会があるホテルのレストランだった。

「仕事のスケジュールが詰まっているんです。会長とはいえ、急なお誘いは困りますよ」
「そうだな」

 ――だが、断れない。
 祖父は俺の両親が死んだ後、孫の俺を引き取り、育ててくれた恩がある。
 一般論として、祖父は孫に甘いというイメージがあるが、俺の祖父は厳しかった。
 その厳しさには理由がある。
 宮ノ入グループは巨大財閥だ。社長の椅子を狙う人間は大勢いる。
 陰口を叩くくらいは、まだ可愛いもので、最悪、俺を誘拐しようとする奴まで現れたのだ。
 そのため、祖父は俺にあらゆる教育を与え、弱さを相手に見せるなと教えた。
 祖父が望んだとおり、有名大学を卒業、海外支店に勤務。結果を出し、宮ノ入グループの社長になって戻った。
 もう誰も俺の文句を言わないはずだったのだが、大学卒業あたりから、結婚相手について、あれこれ言われ出した。
 もちろん、祖父も。
 だから、俺は結婚相手を自由に選べない立場だ――そう思っていた。
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