怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~

 年齢は私よりも上だと思う。悠正さんと同じ三十代半ばぐらいだろうか。

 すらっと背が高く、整った顔立ちをしているものの、なんとなく目だけは冷たく感じ、近寄り難い雰囲気を出している。

 男性が苛立つように腕時計に視線を落とした。


「もうこんな時間か。急いで戻らないとマズいな」


 そうぼやきつつも外に出ていこうとしないのは、おそらく傘を持っていないからかもしれない。「どうするかな」と怒ったような口調でぶつぶつと呟いている様子が少しこわくて、私は男性からそっと視線を逸らした。


「仕方ない。走るか」


 すると、隣からそんな声が聞こえて、思わず男性に視線を戻してしまう。

 えっ、走るの⁉

 外はまだ土砂降り。それなのにこの雨の中、傘も持たずに走ろうとしているのだろうか。大丈夫かな……。

 今日たまたまこの場所で見かけた人だけど、さすがにそれは心配になってしまう。

 そのときふと、そういえば……と思い出した私はバッグのチャックを開けて中に手を突っ込んだ。お目当てのものを見つけると、それを取り出す。

 今朝の天気予報に雨マークが付いていたので念のため折り畳み傘をバッグに忍ばせていたことを思い出したのだ。これで借りてきた事務所の傘を含めて、私が所持する傘が二本になった。

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