それは夕立とともに
 彼女は俺の存在と視線を気にしてか、電話ボックスの壁にこれでもかというほど、へばり付き、不安そうに外を見つめていた。

 手を伸ばせば容易く触れられる位置に好きな人がいるのに、足元のスクールバッグに目を落とすのがやっとで会話すらできない。

「あ」

 急に鞄の中身を思い出した。ファスナーを開けてガサガサと中を漁る。

「栞里ちゃん、これ。スポーツタオルなんだけど、良かったら使って? こっちのはまだ使ってないから」

「えっ」

 彼女は狼狽えつつも俺の手からタオルを受け取った。

「……あ、りがとう」

 栞里ちゃんの利き手は右手であるはずだが、彼女は左手だけで濡れた箇所を拭いていた。気になる右手には白い手帳型ケースに包まれたスマホがしっかりと握られている。

「スマホ、しまわないの?」

「……し、しまうよ? 今、そうしようと思ってたところ」

 彼女は上擦った声で返事をし、動揺をあらわにした。曖昧な手つきでスマホを鞄の外ポケットに押し込んでいる。

「た、タオル。また洗って返すね?」

「あ、うん」

 ーー何をそんなに慌てているんだろう?

 栞里ちゃんの挙動不審には首を傾げるばかりだ。

 再び降りた沈黙に、俺はつい五分ほど前の事を思い返していた。
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