桔梗の花咲く庭

第2話

「カブとダイコンが煮えました。後はどうすればいいですか?」

「ざるにあげて、湯切りしてちょうだい」

お義母さまはぬか漬けに夢中だ。

鍋の野菜は、こぽこぽと泡と一緒に踊っている。

この後にもまだまだ、しなければならない作業は山積みだ。

奉公人たちもそれぞれに、忙しく働いている。

私は鍋の取っ手をつかんだ。

「あっつ!」

勢いでうっかり持ち上げた鍋の取っては、皮膚まで溶かすように熱い。

「あっ、あ……」

足元がよろける。

重たいうえに熱い! 

だけどここで手を離してしまったら、鍋の中身が台無しだ。

「鍋敷きを用意なさい」

大きな手がひょいと伸びて、私から鍋を取り上げた。

「あ、熱いですよ!」

「そこでよいでしょう。危ないので、小松菜をどけてください」

「ふ、布巾で持たないと!」

晋太郎さんは、ため息をついた。

「そう思うのなら、早く鍋敷きを出してくれませんか。なんならそこの、布巾でもいいです」

慌てて板の間に布巾を広げ、思い直してそれを畳む。

「早くここに……」

「小松菜」

山と積まれたその束を抱えて持ち上げると、その人はようやく鍋を布巾に置いた。

「あ、熱くはないのですか?」

「熱いですよ」

義母の呼ぶ声が聞こえる。

晋太郎さんは行ってしまった。

ざるの山を運ぶ手伝いをするよう言われている。

「あ、これを使いますか?」

持ち上げた山のうちから、その一つを差し出す。

私はそれを受け取った。

「早く湯から出さないと、冷ますのに時間がかかりますよ」

ざるの山を抱えたまま、その人は外に干すため土間を出て行く。

とり残された私は、呆然と見送った。

この手はまだじんじんと痛むのに、あの人は何ともないのだろうか。

すごく熱かったよ? 

あの人にしたって、熱くなかったわけでは決してないだろうに……。

大きなさじで、鍋の中身をすくう。

まだ湯気の立ち上る大根をざるに移した。

その人は庭先の縁側に座って、作業を眺めながらぼんやりとスルメをかじっている。

その姿を見ただけで、なぜだか急に恥ずかしさがこみ上げてきて、大根の一切れを落っことしそうになる。

夜になって、その人は部屋にやってきた。

「手を見せてください」

私にはどうしても、確認しておかなければならないことがある。

「まだ起きていたのですか?」

「手を……見せてほしいのです」

行燈の薄明かりの中で、ムッと顔をしかめたその人は、渋々と正面に腰を下ろした。
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