桔梗の花咲く庭

第5話

「あら志乃さん、もう動いて大丈夫なの?」

「えぇすっかり」

そう言ったのに、お義母さまは不機嫌そうに顔をしかめた。

「なによ、無理なんて、することないのよ。気分が悪いのなら、素直に横になっていればいいのに」

「いえ、おかげさまで、すっかりよくなりました」

「あらそう?」

明らかに義母の機嫌は悪くなる。

そわそわと落ち着かないその仕草に、私は少し混乱する。

「それはよかったですこと!」

落ち着かない義母の様子にしばらく気を使っていたのが、やがて勝手に機嫌を直してくれたことにほっとする。

食事のために全員がそろったころには、すっかり元に戻っていた。

「志乃さんは、ただの食あたりだったそうですよ」

食欲旺盛な義母の隣で、お義父さまは「それはなにより」とだけ答えた。

お祖母さまは、何も言わず食事を続けている。

何か悪いことでもしたような気分になって、私は隣の晋太郎さんを見上げた。

「大事なくて、なによりでした」

さっきまでの、寝ぼけた気配はみじんも見せず、涼しげな顔をこちらに向ける。

「それで、本当にご実家に戻られますか?」

「いえ、特に用事もないので。このままここにいようと思っているのですが……」

「そうですか。ならば結構です」

その人はもくもくと朝餉を口に運ぶ。

体調はよくなったとはいえ、食欲はまだ元には戻らない。

この人は……引き留めてはくれないんだな。

冷や奴だけをスルリと喉に通して、食事を終えた。

「本当に、もう体調はよくなったの?」

片付けをしている最中に、再び義母に聞かれた。

「えぇ。ありがとうございます」

「今朝もあまり食べていなかったじゃない」

「うーん。でもまぁ、大丈夫だと思います」

「そう? 本当にそうなの?」

そうやってしばらくあれこれと構っておいてから、義母はようやくふぅとため息をついた。

「ま、こればっかりは、どうしようもないものね。まだ本調子じゃないのなら、今日も一日休んでいなさい」

そんな突然に暇を出され家に閉じ込められても、本当にすることが見当たらない。

家の軒先と白い土壁の隙間に見える、わずかな空を見上げる。

じっとりと蒸し暑さは増して、茹だるような熱さだ。

桔梗のそよぐ庭が浮かぶ。

廊下で物音が聞こえた。

「晋太郎さん?」

手に桶と柄杓を持っている。

そこには桔梗が差してあった。

「墓参りですか?」

今はお盆の時期だ。

自然とそんな言葉が口をつく。

「えぇ……、まぁ、そんなもんです」

「私も行ってよいですか?」

「……。ま、まぁ……、墓参りですので……」

お供は断って、二人で外へ出る。

久しぶりの外出に、私はうきうきしていた。

「どちらのお墓へまいりますか?」

少し意地悪な質問をしてみる。

「墓はこちらです」

珠代さまの墓参りに行くのか、それとも坂本家の先祖の墓かと聞いたつもりだったのにな。
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