桔梗の花咲く庭

第2話

お義父さまとの勝負が始まった。

晋太郎さんよりは上手いけど……。

パチリと置いた決め所のキリの石に、お義父さまは動揺を始めた。

「ちょ、ちょっとお待ちなさい」

長い長い待ちに入る。

晋太郎さんの横顔を見上げた。

この人も試合の間は真剣な顔をして碁盤をにらんでいたのに、私の視線に気づくとぱっと顔を上げた。

にこりと一つ微笑んで、すぐに視線を戻す。

なんだか頭がぼんやりとしてきた。

晋太郎さんを、最近はこんなに近くで見ていなかったからかもしれない。

会話はないけど、なんだかちょっと寂しいような、そんな変な気分になる。

「お疲れなら、休んできてもいいですよ。続きは明日にでもいたしましょう」

晋太郎さんの声に、ハッとする。

少しうとうとしてしまっていたのかもしれない。

「では……。お言葉に甘えて、失礼します」

立ち上がろうとして、床に手をついた。

その手がぐらりと傾く。

「志乃!」

目が回る。

バタリと床に倒れた。

体はだるくて重くて動かせない。

晋太郎さんの腕が私を抱き起こした。

「志乃、しっかりいたせ。どうした!」

体が熱い。

意識が遠のく。

やがて視界は真っ暗になった。

体だけが、ふわりと持ち上がる。

晋太郎さんが何かを叫んでいる。

周囲はバタバタと慌ただしい。

やがて私は、布団の上に寝かされた。

往診に呼ばれた医者が脈をとる。

額に手を置き、首筋に触れた。

「熱が高い。解熱の薬を処方しておきましょう。それを飲んで三日経っても下がらぬようなら、またお声かけください」

ようやく目が開いた。

晋太郎さんと義母がのぞき込む。

助け起こされ、苦くてたまらない薬湯を口に含んだ。

濡れた手ぬぐいがひんやりと気持ちいい。

「いつからお加減が悪かったのです」

全ての人を下がらせ、二人きりになったところで、その人はようやく口を開いた。

ここは私の部屋だ。

衣桁には雑巾やはたきなんかがかけてあって、散らかしたままの裁縫箱に、小袖やら何やらが寄せ集めただけでまとめて置いてある。

行燈の脇には小さな文台があって、こぼした墨の染みが目立つ。
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