桔梗の花咲く庭

第2話

「おや珍しい。今日はまだ起きているのですか」

そんなことを言いながら横になる。

衝立の透かし彫りの向こうに見える横顔は、いつものように目を閉じた。

「起きていてはいけませんか?」

「いいえ。最近はなかなかお話する機会も少なかったので。何か気にかかるような事でもございましたか」

寝返りを打つ。

見慣れた彫りの向こうで、その人は目を閉じたまま動く様子もない。

「それでは、寝ているのか起きているのかも分かりません」

「起きていますよ、ちゃんと」

ごそごそと衣ずれをさせて、その人はこちらを向いた。

「これでよろしいですか」

「……衝立が邪魔で、よく見えません」

晩秋の静かな夜だ。

行燈の油皿に差した芯の、燃えてゆく音まで聞こえてくる。

「動かしますか?」

この衝立を必要としているのは、本当は私ではなく、晋太郎さんの方ではないのか。

だけどそんなことは言えない。

せめてもと床から浮いた隙間に手を伸ばす。

大きな手はすぐに重ねられた。

何か言わないといけない気はするけど、言葉が見つからない。

この人も何も言わない。

握られた手を、ほんのわずかでも動かしてしまったら、すぐに離されてしまうような気がした。

それでもこの手を離さないでいてくれるのなら、もうそれでもいい。

あなたの心に思う人が、私でなくても構わない。

握る手は緩んでも、ほどかれはしなかった。

またしっかりと私の手を握り直す。

自分の本当に好きな人は、自分だけが知っていれば、それでいい。

「眠るまで、離さないでいてください」

衝立の向こうから、小さなため息が聞こえた。

また何か間違えたんだ。

手を引っ込めたくても、今さらそれも出来ない。

こんなこと、やっぱりするんじゃなかった……。

朝になり目が覚めると、その人はもうそこにいなかった。

なんだ。結局やっぱり、そういうことなんじゃないか。

姿は見えなくても、手のぬくもりと後悔は肌に残っている。

もう迷うことはない。

これ以上嫌われることもない。

奥の部屋へ一番に駆け込んだ。
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