虹の向こうに君がいる
「優菜ちゃん」

穏やかな顔でにこりと微笑む尚人は、中学に入ってまでも優菜のことを「ちゃん」付けで呼ぶ。その呼び方も気に入らなかった。無視して昇降口を通り過ぎようとしたら、其処から出てきて優菜の隣に並んだ。

「雨降りそうだね。早く帰ろ」

まるで一緒に帰るのが当たり前のようにして、言う。幼馴染みと一緒に帰るなんて、恥ずかしくて仕方ないのに、断ったら尚人は悲しそうな顔をするんだろうなと思うと、きつい言葉も言えない。思春期の女子の心理を察して欲しいと思う優菜は、間違ってない筈だ。

尚人は優菜の隣を歩きながら、楽しそうに話を続けた。二人して並んで校門をくぐる。この先の商店が数軒立ち並ぶ道を抜けて公園を横切ると、住宅街になる。優菜たちの家は其処にあった。毎日繰り返される、肩を並べての下校は、其処まで続く。

「明日、地区予選だね。見に行くね。頑張ってね、優菜ちゃん」

返事もせずにひたすら歩く。尚人は優菜が無言なのも気にしないで言葉を続けた。

「お弁当、何入れようかなあ……。玉子は甘い方が良いよね。後はハンバーグと、ブロッコリーと、ゆで卵も入れるね。昨日、ラディッシュをマリネに仕込んだんだ。酸味は疲労回復に良いと思うよ」

うきうきと話す尚人にうんざりする。苛立ちがピークに達して、優菜は口を開いた。

「あのさあ」

その時、尚人がアッと叫んだ。

「降って来た! 急ごう、優菜ちゃん!」

黒々と重たそうな雨雲から、ぽたりぽたりと大粒の雨が落ちて来ていた。ぽつん、ぽつんとアスファルトに落ちて、真っ黒な染みを作っていく。

ぱた、ぱたたた。

雨粒はその、真っ黒い雲から落ちてくる量を、一気に増やした。

ざあー、と雨粒が道路に打ち付ける。跳ね返りのしずくが優菜たちの足元を濡らした。

あっという間に水たまりが出来上がる。鞄を傘代わりに頭に載せて走ったけど、これ以上はびしょびしょになると思って、優菜は通りにある洋菓子店の軒先に雨避けに避難した。尚人もそれに倣った。
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