虹の向こうに君がいる
「虹だね」

尚人が嬉しそうに話し掛けるのにも、頷くことしか出来ない。

声を発することも、出来なかった。

尚人の視線の先にある虹を、一緒になって、ただ、見つめる。

どのくらい経っただろう。やがて虹が消えようとするときに、尚人は言葉を継いだ。

「知ってる? 優菜ちゃん。虹って、龍だっていう説があるんだよ」
「……龍……」

唐突に、現実味のないことを話し始める尚人に、相槌だけ返す。

「水の底にひっそり居た龍が、空へ昇るときに雷雲を呼ぶんだって。その一対の龍を、虹に見立てたって聞いたことがあるよ」
「……一対の……」
「うん。それ聞いたときに、昔の人はロマンチックなことを考えるなって思ったんだ」

尚人の、優菜に向ける笑みが眩しい。西の空に浮かぶ太陽の陽に弾けて反射する、かすかに残った雨が、尚人の周りをきらきらと輝かせていた。

「優菜ちゃんと虹を見ることが出来たら、絶対話そうって思ってたの。……良かった、言えて」

にこりと微笑む、尚人の耳の先が赤いと思うのは、陽に透けているからだろうか。……それとも?

「……、……なお、……と?」
「あっ、雨、止んだね。行こうか、優菜ちゃん」

そう言って優菜を軒先から連れ出す尚人の手のひらが湿っている。

夏の暑さだけのせいじゃないその湿り気に、何故だか急に心臓がどきどきと走った。

尚人に手を引かれるまま、帰路を辿る。

優菜は消えゆく東の空の虹を振り返らなかった。








心に、きらきらとしたものが残ったから……――――。

< 4 / 4 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:2

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

空を舞う金魚

総文字数/59,106

恋愛(純愛)153ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
地味な女の子が職場のイケメン二人に交際を申し込まれる!最終的に手を取るのはどっち!?
料理男子、恋をする

総文字数/93,960

恋愛(ラブコメ)125ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
料理を作るがゆえに、恋人に振られ続けた杉山佳亮(すぎやまよしあき)(27) と 料理を全くしない、食事も疎かな、大瀧薫子(29) 食を通した人間関係が新しく出来上がっていく・・・。
表紙を見る 表紙を閉じる
金持ちから一転、借金を負う羽目になった岬の家。 そんな時、借金の返済を助ける代わりに金持ち時代に下僕と見ていた彩乃の執事になるよう父親に言われる。 不承不承彩乃の執事になる岬。 過去に下僕扱いした仕返しに岬を執事に着けて機嫌のいい彩乃に、せめて学校生活だけは岬の王城を守りたいと思っていた。 ところが、高校進学を機に、彩乃が岬の通う公立の高校へ進学する。 学校という岬の王城で彩乃が次々と岬の名声を奪っていく。 屋敷でも学校でも辛酸を舐める岬。 しかし彩乃が岬を執事に雇ったのには訳があった。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop