京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
「私、記憶が戻ってもここにいていいんですか?」


「もちろんです。あなたがいたいだけ、ここにいればいい」


その言葉が嬉しくて涙が滲んで来た。


今まで記憶を取り戻すことが怖かった。


それが純一との別れになると思っていたから。


だけど今は違う。


純一はここにいてもいいと言ってくれている、その安堵感が広がった。


「実はあの時、黒田さんの電話番号を聞いておいたんです」


「そうなんですか?」


「えぇ。もしかしたら手がかりになると思って」


道の駅で春菜に背を向けて2人でなにか話していたことを思い出す。


あの時に番号交換をしていたみたいだ。


「これから黒田さんに連絡を取って、2人で会いに行く約束を取り付けます。そこで春菜さんについて質問する。それでかまいませんか?」


その質問に春菜は少し緊張してゴクリと唾を飲み込んだ。


いよいよ自分について知る時が近づいてきたようだ。


ここからは逃げることができない。


「わかりました」


春菜は緊張する気持ちを押し殺して、頷いたのだった。
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