京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
『どうだろう? 僕と関係を持てばフロアマネージャーにもなれるし失恋の傷も癒える。もちろん、満足だってさせてやる』


田島の興奮した鼻息が近づいてきて春菜は顔をそむけた。


『田島さんは私を愛人にしたいんですか?』


『ははっ。自分からそんな風に質問するなんて思っていなかったな。僕の選んだ子たちはみんな自分こそ本命の恋人だと勘違いしているのに』


そんな言い方をするということは、田島はもう何人もの女の子と関係を持っているのだろう。


田島はたしかに魅力的だし優しい。


弱っているところに漬けこまれたら、ついついていってしまう気持ちもわかる。


『奥さんとお子さんがいるのに!』


春菜は間近に迫る田島を睨みつけて叫んだ。


『あぁそうだよ。だけど僕に恋をした彼女たちにはなんの関係もない。いつか別れてくれるものと信じている』


『田島さんがそう信じ込ませているんでしょう!?』


田島がどんな甘い言葉を吐いているのか安易に想像することができた。

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