恋する乙女の下着事情
<コスメティック会社・広報部 部長室・その4>

「というわけで、後の細かい段取りと打ち合わせは、
総務のほうでやります。」
数人の部下を従え、高屋敷が仕切っている。

そこではおねぇ言葉は、封印しているようだ。
部下たちが退出して、
部屋にはリノアと高屋敷だけになった。

「いろいろとご配慮、ありがとうございます。
それでは」
リノアは就活バックを持って、
椅子から立ち上がろうとした。

「待って、リノアちゃん!」
高屋敷が厳しい口調でリノアに声をかけた。
「はい?」

「あなた、女・・捨ててない?」
その言葉に・・・
リノアが固まった。

高屋敷は、
机の上にあるサンプルであろう、
口紅を手に取った。
「私なんか、気をちょっとでも抜くと、おっさんになっちゃうのよ。
あなたみたいに、
きれいになろうと、努力しないのが気に食わない!」
高屋敷は、美形の顔で迫ってきた。

そして、
リノアの顎に手をやり、
口紅を慣れた手つきで唇に塗る。
「ほらね、赤が入るだけで、
全然違うでしょ。鏡、見て?」

高屋敷はきれいな装飾の入った
手鏡を、リノアにつきつけた。
鏡を受け取りながら、
リノアは言い訳っぽく言った。

「こどもたちの相手をしていると、お化粧しても、
ぐちゃぐちゃになるから・・・」
本音は・・・
そもそも、化粧は面倒くさい。

リノアの育った環境は、
練習、合宿、試合の3パターンである。
化粧の技術向上より、技の技術を会得するほうが、
皆からほめられたのだ。


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