10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 疑問符が浮かんだ次の瞬間、
「あれ、服部さん」
とのんびりした声が私の後ろから聞こえた。

 服部さんと呼ばれた男の人は顔を上げると、少し気まずそうな顔で、島原先生、と呟く。
 私の後ろにいたのは、島原先生だったのだ。

「こちらでお話伺いますねぇ」

 その言葉にすっかり大人しくなった服部さんは島原先生と一緒に歩いて、待合椅子の端に座る。
 そして島原先生と一言二言かわすと、すっかり毒気を抜かれたように服部さんは大人しく座っていた。


 それから島原先生は私のところまでやってくると、もう大丈夫だよ、と笑う。

「島原先生、ありがとうございます」
「いえいえ。怖かったよね? あの人、ちょっと気性が粗いんだよね。特に若い女の子に対しては……ちょっと威圧的でね」

 島原先生は困ったように言う。
 いや、怖くはなかった。

「どうしたの?」
「いえ……」

―――ただ、どうして暗示がきかないのだろうって思っただけだ。

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