10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 先生は、少し考えるそぶりをすると口を開いた。

「もしかして、さっきから果歩が言ってる『暗示』って、果歩がじっと見つめてきたやつのこと?」
「……う」

 さらに言い当てられて、私は言葉に詰まる。
 先生は眉を寄せ笑う。その様子を見ていると、今更、そんなことを本気でできると思っていた自分が恥ずかしくなってきた……。

 あれ? じゃあ、島原先生関係ないの? 最初はただ、島原先生が私をからかっただけ?
 それが全部うまく作用して、私がそう思い込んだだけ⁉

 島原先生も内心笑っていたのだろうか。
 そう思うとさらに恥ずかしくなる……。

 そんな恥ずかしさに悶えていると、大和先生は私の頭を優しく撫で、私の目をまっすぐ見る。

「あのさ……あれ、絶対他の人にしないでくれない?」
「え?」
「お願い」

 真剣な目の先生にそう言われて、私は思わずコクンと頷く。
 すると先生は安心したように微笑んでもう一度私の頭を撫でた。

「あんな風に果歩に見つめられてる相手みたら、きっとどうにかしたくなっちゃうし。本当によかった」
「どうにかってなんですか」
「医者が言っちゃいけないこと」
「そんなことしないでください!」

 一瞬で全身に鳥肌が立つ。以前の大和先生の雰囲気を思えば、してもおかしくない。
 先生をジトっと見つめていると、先生は笑いながらまた私に言う。

「あはは。まぁ、冗談はさておき。お願いだよ。わかった?」
「……はい」

 もう一度コクンと頷くと、次の瞬間、なんだかじわじわと実感がわいてきた。
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