10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 目を開けるともう朝方で、大和先生がこちらを見ていた。
 先生、先に目が覚めちゃったんだ。

「果歩……?」
「……今、お父さんが夢で……」
「病院長?」
「ううん、本当のお父さんが夢に出てきました。こんなの初めてで……驚きました」

 父が亡くなったのは私が5歳のとき。
 年々記憶が薄れてきて、写真の父の顔しかもうわからなくなっていた。

 それに……。

「お父さん、大和さんと話してました」
「……」
「知ってるなら、教えて欲しいです。なんでもいいから、本当の父のこと」

 大和先生と父が、あんなに仲がいいとは思ってなかった。本当に、仲がよさそうに見えた。

 今まで本当の父のことは誰かに聞いたことはなかったけど、私はああやって笑い合ってた大和先生になら、聞きたいと思ったのだ。


 私が真剣な顔で大和先生を見ると、先生は愛おしそうに目を細めて私を見た。

「歩さんは俺の憧れの人で……よく話もしたし、色々教えてもらった。あのイチゴ味のラムネも、最初は、幼い俺に歩さんがくれて、それから少しして味の意味を教えてくれたんだよ」
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