10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「そんなところに突っ立ってないで、入りなさい」
「ふぁいっ!」

(緊張して変な声出た!)

 入りなさい、と言われても、足の裏がそこに貼り付けられたように、まったくその一歩が進まない。大和先生は、玄関先で立ち止まって動けない私の手を優しくつかむと、室内に引き入れた。

 ここは大和先生の住むマンションだ。もちろん、今まで一度も来たことはないし、実は今まで住んでいる場所も知らなかった。
 そして、それは病院から徒歩5分ほどの位置にあることが本日わかり、今日から私もここに住むこととなっている。

(めちゃくちゃ広いし、通勤にはかなり便利だ……。便利だけど……!)

 泣きそうになって目の前の大和先生を見上げると、仕事では絶対見ることのない甘い目で私を見ている。
 その目で見られるたび、私は、恐怖と恥ずかしさと、そして、今すぐ土下座したくなる気持ちがごちゃ混ぜになって、さらに泣きそうになるのだ。
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