零時の休息
おそるおそる視線を戻せば、美しい絵画の如く青年は紅茶をいただいていた。もう後戻りはできないのだろうと等々腹をくくり、同じように紅茶を飲むことに。




ゆらめく湯気から香る茶葉。


淡い琥珀色に心解かされる。



「毎日仕事仕事仕事。本当はもうとっくに、心なんて捨ててしまったのに。 ――あなたなんて大嫌いだわ」


「構いませんよ。嫌われることなんて慣れてます。でも悪くないですよ?こうして、感情を見せてくれるのだから」




いつの間にか泣いていることに気づく。



ずっと平気だった。



仕事で怒られても。


同僚から悪口言われても。




「ケーキも食べてみてください。青い薔薇のケーキです、こうみえてお菓子作りが好きなんで」


「……きれい」




神秘的な青のお菓子。ずっとこんな綺麗なお菓子を食べてみたかったけど、お前には似合わないよって彼氏に言われて以来想うことすらやめてしまった。



「バタフライピーっていう植物を使ってるんだ。花弁が蝶みたいでね、はじめて見た時は子供のようにはしゃいだっけな」



青年の顔はどこか物思いに沈んでいるように見えた。しかしそれを聞く勇気もなく、青い薔薇のケーキにスッと切れめを入れ口に運ぶ。



軽く淡雪のように溶け、レモネードの優しい味が広がった。



その後も黙々と食べ続け、残ったのは空の皿。青年はやわらかく瞳を細め――ふと笑う。そして空になったティーカップと皿を引き、最後に運ばれてきたのは……。




「翡翠の森。ミントホイップに、ミントも添えたアイスコーヒーだよ」


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