彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
好きな人
なにもかもを病気のせいにするわけじゃないけれど、生活することでいっぱいいっぱいで、今までちゃんと異性を好きになった経験がなかった。


幼稚園の頃先生に憧れたり、小学生低学年の頃クラスメートに憧れることはあったくらいだ。


交通事故に会って失顔症を発症してからは恋愛ところではないままここまで来てしまった。


家に帰ってからもドキドキしっぱなして、両親と一緒に夕飯を食べていても頭は霧がかかったかのようにハッキリしない。


気がつけば彼のことばかりを考えている。


「ちょっと知奈どうしたの? 今日はぼーっとしちゃって」


お母さんが呆れ顔で聞いてくる。


「え、べ、別になんでもないよ」


慌ててそう答えるものの、頬のニヤケを自分で抑えることができない。


恋をするってこういうことなんだと初めて知った。


自分で自分の感情を制御することも難しくなるなんて、思ってもいなかった。


「まぁ、知奈が楽しそうならそれでいいじゃないか」


お父さんは満足そうな声でそう言い、晩酌を勧めたのだった。
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