sugar spot
##4.「天敵たちのお酒にまぎれた惚気話」

______________

_______



「穂高。今日という今日は、お前を先に潰す!!」

「頑張れ。」

「うわ…!なんだその余裕そうな顔!?
彼女できた心の余裕が、そうさせるんですか!?」


今それ、何の関係があったのだろう。

白けた顔で無言を貫いてビールを仰ぐ俺に、目の前の男は興奮状態のままだ。

丸めたおしぼりをマイクのように扱ってこちらに向けつつ、俺の言葉を促してくるから余計に面倒で、更に睨みを利かせる。


「…ほんとさあ。もっと早く言えよお前。」

大きな息を吐き出して溜息を漏らしているのは、同じビルの別フロアで働く、長濱という同期一煩いと断言できる男だ。



「何を。」

「だーかーら、梨木のことずっと好きだったなら先に言っとけよ!」

「……なんで。」

「なんで?じゃねーよ!
なんも知らずに最後まで梨木のことデート誘ったりして恥ずかしいわ!
そしてその後、ちゃっかり芦野にも振られたわ!」

「お前はなんでそう、いろんな奴を誘うんだよ。」



以前、"長濱を労う会"という謎の会が開かれた時、俺は残業により、一次会がお開きになるくらいの頃合いで、漸く滑り込んだ。


『…別にそれが悪いって言うつもりは無いけど。
でも余所見する余裕、俺には最初から無い。
ここまできて、他の奴に渡すかよ。』


長濱に誘われていたあの女を引き寄せて告げた言葉は、今でもあまり思い返したくは無い。

でも、本心ではあった。



この男が「ちゃんと色々話を聞かせろ」とあまりにしつこく連絡をしてくるのを結局突っぱねられないのも、あの時のことや俺達のことをなんだかんだ言いふらしたりはしない、そこの気遣いを知ってしまっているからだ。ほんと、煩いけど。



華の金曜日という貴重な時間を割いて、なんとなく2人入った居酒屋で、まだアルコールは一杯目の筈だが、長濱は既に身振り手振りが大きくなってきている。

はあ、と溜息を吐けば

「同期に可愛い子いたら、
デート行ってみたいかもって思うだろ!?」

と勢いよく確認される。



運ばれてきたつまみの皿を、テーブルの中央に移動させながら「思わない」と抑揚無く告げると

「梨木みたいな可愛い女子捕まえといて何言ってんだ!」
と、なんともコメントのし辛い怒りをぶつけられた。


「長濱。」

「なんだ!」

「俺は、"あいつだから"、
ずっとデート行きたかった。」

「……、」

あんぐりと口も目も間抜けに開く男に、ふ、と表情が思わず崩れた。


「お前そんなのっぺらぼうの面して
さてはめちゃくちゃ浮かれてるな…!?」

「まあ。」

「かーーー!惚気言うたびお酒注文してやる!」


大興奮状態で既に店員さんを呼ぼうとする男は、やはり俺の直属の先輩に被る。

こういうキャラの人間と、俺は何か縁があるのか。


その様子を見守っていると、テーブル上のスマホが光る。


《今、奈憂と私の家で映画観てる》

《こっちは長濱が煩い。》

《奈憂が"アーリーに会いたい"って言ってる》

《芦野だけ?お前は?》

《何でそういう聞き方するの?
寝る前に新曲一緒に聴きたいから、飲み過ぎないでよ。》

素直に自分の部屋に来いと言えない女からのメッセージにまた、口角の緩みを自覚した。




「おい!?
俺といる時は、可愛い彼女との連絡我慢して!?」

「本当に面倒だなお前。」


あと、あの女は多分、お前が思ってる何倍も可愛いけど。
それは絶対に言ってやらない。
< 218 / 231 >

この作品をシェア

pagetop