40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
「いい部屋だね」
「そ、そうですか……?」

どうにか取り繕った部屋を、樹さんは気に入ってくれたらしい。

「ああ、君の匂いがして、落ち着く」
「そ、そうですか……?」

時々理解不明な事を言ってくる樹さんは、本当に表情を変えることが稀。
笑顔になることも滅多にないが……根本的に喜怒哀楽の感情を表情に出すことが苦手なのだと、言っていた。
だから樹さんは、どんな言葉も真顔で話す。
たとえそれが、少女漫画に出てくるキラキライケメンが発するような……砂を吐きたくなるような甘いセリフだったとしても。

「どうした?優花?」
「いえ……威力に自覚がない人の無邪気な攻撃って怖いなと思いまして……」
「どういうこと?」
「何でもないです!」

(自分の顔面力と言葉が、どれだけ相手にダメージを与えるか……この人種は自覚がないんか!?)

どんどん顔が熱くきた。
今体温を測ったら40度超えになるのでは……?
せっかく新調した……といっても恥ずかしくてネットでぽちっただけの下着が、自分の汗で濡れていっているのが、肌で分かる。

(着替えなきゃ……)

私は樹さんを、この部屋にある1番値段が高いクッションに座らせてから、テレビのリモコンを渡した。

「ゆっくりしててください。テレビは自由に見てくれて良いですから」
「どこ行くの?」
「ちょ、ちょっと洗面所に」
「そうか、分かった」

普通、これだけでもドキドキものだ。
でも、樹さんはそれをはるかに上回ってくる。

ちゅっ。

「!!????」

急に引き寄せられたかと思うと、樹さんに頬キスされてしまった。

「早く戻ってきて」

こんなことを、真顔でしてくる樹さん。

「……は、はいぃ……善処します……」

急いで準備していた着替え用下着セットを持って、洗面所に逃げた。

(私……今日……無事でいられるのだろうか……?)

洗面所の中で、用意したブラと下着のセットを見ながら、ようやく呼吸がちゃんとできた。
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