地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
念願の創太郎特製ペペロンチーノをゲットした後、またしばらく珈琲の勉強をしていると、昨日と大体同じ時間にゴローさんがやって来た。


「お! やってるね! 今日も。」



昨日見たニコニコとした笑顔で、昨日と同じカウンターの端の席に腰掛けた。


この席が定位置なのだろう。


「ゴローさん、いらっしゃいませ!
まだ二日目だけど、昨日より少し慣れたし、ちょっと楽しくなってきました!」


「あそう! じゃ、今日は佳乃ちゃんの客に出す人生2杯目の珈琲、頂こうかな!」



なんとなくゴローさんが来たらそう言われるかな、という気がしていたので、気恥ずかしいながらも素直に用意した。



「そのうち俺の珈琲の味忘れるんじゃないの?」


創太郎が笑いながらゴローに言った。



「ハハ、"ソウ"の珈琲は何千杯も飲んでるからいいの!」



「そうちゃんとゴローさんは仲良しですね。
そうちゃんの事、"ソウ"って呼ぶ人初めて会いました」


お母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、"創太郎"とか、"そうた"とは呼ぶけど、"ソウ" と呼ばれてるのは初めて聞いた。



ーーー友達とかには、"ソウ"って呼ばれる事も多いのかな




「そうか? 海外ではほとんどみんなそうやって呼ぶぞ?」

「そうなんだ!」

「まぁ、僕とソウも腐れ縁だから。 
佳乃ちゃんだって、"ちゃん"が付いてるだけで、ソウ ってよんでるじゃない」



「… あぁ〜、言われてみればそうですねぇ。」



佳乃の場合は、小さい頃創太郎に、

"そうたろう様と呼べ!" と言われていたが、幼児だったので長い名前の発音が難しく、

"そーちゃおー" とか、"そーちゃおたま"とか言ってた名残なので、どちらかと言うと、ソウではなくて、ソウタロウが変化していった流れである。



そんなどうでもいい事を思い出しながら、心を込めてゴローさんの珈琲を淹れていった。


昔を思い出すと、創太郎への苦いトラウマが蘇って来るので、珈琲に苦味と雑味が混じりそうだ。


ーーー うん。思い出すのは止めよう…



「では… こちらを…。  どうぞ!」


朝、創太郎に出した時の100倍くらい緊張しながら、ゴローの前へ珈琲を丁寧に置いた。
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